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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

石の民「君は星星の船」■第5章 アルナ

SF小説■石の民「君は星星の船」■(1989年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
■ 石の民「君は星星の船」(1989年作品)■
■ 第5章 アルナ

 ミニヨンAは目覚めた。「私はなぜここに」ミニヨンAは台の上に寝かされていた。ミニヨンAのまわりには、多数の人々が集まっていた。人々は灰色のボロギレをまとい、顔も覆面でかくしている。独特の雰囲気がある。不思議な事に話し声が聞こえてこない。その静けさの中、急に声がした。

「死せるものの船へようこそ」ミニヨンAはその声の方向を向く。女がひとりいた。隣にいる男が覆面を脱ぐ。大吾だつた。
「ここはどこなの」ミニヨンAは尋ねる。
「いったでしょう、『死せるものの船』だと、我々は青き空間の中をとんでいる」女が答える。
「私はなぜ、ここに」
「おまえはこの石棺とともに運ばれて来たのだ」大吾がいった。
「石棺と」ミニヨンAがいぶかしげに尋ねた。「そうよ、この大吾は、私がこの石棺を回収させるために、遣わしたのよ」
「あなたはだれなの。あなたの声は聞いたことがある」
「そのはずよ。あなたの心を育てたのはこの私だもの。私はこの『死せるものの船』を率いる女王アルナよ、また、石の民も率いている。お前の樹里にいた「石の男」は、私が追放した。私アルナと石の男は争っていた」
「石の男を、何のために」
「この船の行き先について、私と彼は意見をことにしていた」アルナは続けた。
「意見が異なるだけで、彼を追放したの」女王アルナの体を、はっきりとミニヨンAは見ることができなかった。女王はなぜか泣いているように見えた。
 7色の光を放ち、その光が強すぎるのだろう。その輪郭をはっきりつかむことができないのだ。

「アルナ、君がなぜ、私を」
「ムリム、この石の民を守るためよ」
「そのために、この私を追放しようというのか」
「私は義務として、あなたを追放しなけけばならない。双子のようなあなたと私。でも私はあなたよりこの船と石の民をとります」
「アルナ、君はあとで後悔することになる。とりかえしのつかない事をしたってな」
ムリムと仲間を乗せた補助艇は青き大地の中へ送り出されていった。
 アルナは自分の構成因子を種子として、この補助艇に吹き込んでいた。彼、ムリムはひょっとして、自分たちの世界を作るかもしれない。その時は、私の種子たちが、それを知らせてくれるでしょう。
 ムリムを追放してしばらくした時、突然、船に爆発が起こった。
「アルナ、大変です。聖砲と石棺が消えています」石の民の一人が報告した。「まさか、ムリムが」アルナは驚きの声をあげた。
「どうやら、そのようです。おまけに、ムリムの同調者もこの船に残っている様です」
「その同調者をさがしなさい。そしてムリムたちおを追跡しなさい。大吾、石棺を取り戻してきなさい」
「わかいました。アルナ」
「石棺をみつけたら、連絡しなさい。あなたをすくいあげます」
 
アルナはミニヨンAに続けた。
「この石の棺を手にいれたことで、私のこの船の支配は完全になる。この石の棺が私たちの行き先を決めてくれる」アルナはミニヨンAの方を見ているようだった。
「さて、ミニヨン、おまえにお願いがあるの、おまえのその体を私に差し出しなさい。かわりにおまえは永遠の生命を手にいれる事ができる。そしてこの船を支配できる。この船は世界なの、いえ、もっと巨大なものだわ。私の心の宿主になってくれればねえ。この総ての世界の支配者よ。私の体の半分は機械だもの」
「宿主ですって、なぜ、あなたのような人の宿主なんかに」
「ミニヨンと、有沙の構成因子はすべて私から生まれているよ」
「なんですって、どうしてそのようなうそがいえるの」
「おまえの体が、その世界の人とはことなっていたでしょう」
ミニヨンと有沙の意識がそれを認めた。
「それが、あなたと関係あるとでもいうの」「私ははるかなる昔、ムリムと戦った時、ムリムのからだに私の細胞を埋め込んでおいたの。その細胞が成長したのがお前よ、いわば、私が母なのよ。お前は私の分身」
「信じられないわ」
「事実なの、だから、私の所まで、容易に呼び寄せることができたの」
「それに、石の男ムリムがなぜ、ミニヨンを自分の心底にとりいれたか、わかる」
「まさか」
「そう、そのまさかなのよ。ミニヨンの意識は覚えているはずだわ。ムリムは私のイメージで、ミニヨンをとりいれた。私アルナにそっくりだったから」
「それと、私の体を差し出せとはどういう関係があるの」
「あなたは若く成長した。生命がみなぎっている。お前の体力が欲しい。この船の力を増大するためにもね」
「勝手をいわないで。たしかに、あなたは私のマザーかもしれない。今の今までほっておかれて。母だから、体をよこせと食むしがおすぎるわ」
「あなたになんか、私の体をあげるものですか、死んでもいやよ」ミニヨンAは叫んでいた。
「この小娘、人が下手にでれば、つけあがって。私はお前の母なるものよ。お前の意志など、この船では関係ないことをみせてあげる」「みせてもらいましょう。あなたの力とやらをね」Bグループの有沙のしゃべり方だった。「お前がいうことをきかないのなら、いやでもきかせてみましょう。これは使いたくなかったけれど」アルナの手に何かが出現していた。「それはひょっとして」
「いま叫んだのは、有沙の意識ね。そう、聖なる守り神。聖砲。これは剣の形をとる事もできる」
女王アルナは聖なる剣をミニヨンAにむけた。ミニヨンAは女王の姿を見る事ができた。光はその剣から来ていたのだ。どきっとした。光のなかのアルナは老女だった。

 しばらくして、『死せるものの船』にアルクと光二が出現する。
「ようこそ、この船に」女が待ち構えていた。舞台の上に石棺がおかれている。そのまわり、遠くを石の民が取り囲んでいる。
「ミニヨンAか」光二は喜んでいた。
「光二、いくらいってもむだよ。今の私はミニヨンでも、有沙でもない。この石の民を司る女王よ」ミニヨンAの顔をしたそいつはいった。
「光二、いま、君のすべきことは彼女を倒すことだ」アルクは冷たく言う。「光二、今が君の戦う時だ」
「彼女を倒す。どうやって。あんたは助けてくれないのか、アルク、俺一人でか」
「彼女をたおさなけば、時が満ちない。新世界が生まれない」アルクは叫んでいる。
「新世界だと、俺には関係ない。俺が世界で一番愛しているのは有沙だ。俺はこの姉の顔をした彼女をたおすことなどできないぜ」光二はアルクと一緒のここに来た事を後悔した。「光二、お前は選ばれたのだ。石の壁に書かれているのだ。お前の名前が」
「なんだったって」
「はるか昔から、予言されているのだ。お前が戦わなければ、この世界が  」急にアルクはだまる。
「アルク、どうしたんだ」光二はアルクを見る。
「こ、光二、わ、私のか、体を  」アルクの足先が消えていた。
「アルク、どういう 」光二の体に寒気が襲ってきた。こいつはどうすれば。とんでもないことに、なっちまった。
「ほほ、石の男が消えたいま、私が世界の中心なのよ」
「世界の中心だって、この世界はお前が作ったってわけか」
「でも、お前の属している世界は石の男ムリムが作ったもの。いずれお前もあの男のようになる。ムリムが消えたのだから」
「お前はいったい、ムリムとは」
「この船で私と彼ムリムが戦っていた。主導権をめぐってね」
「主導権だって」
「私たちふたりは移動機構。この船の頭脳なのよ」言葉とともに、するどいアルナの剣先が襲ってきた。
「私は女王アルナ。光二とか、いったね、お前は血祭にあげてやる。私が生まれ変わった印としてね」
「生まれ変わった」
「そう、私はミニヨンAの体をとりこんだ」「ミニヨンの体を、それじゃ、有沙の意識も」「そういう事になる。さあ、お前も私の手にかかって死ぬ」
「なぜだよう、おばさん」
「きがついていないようだけれど、おまえの心底には、石の民アインがいるのさ、ムリムの友達のね。アインは私にそむいた石の民。私が一番手にかけたい男」
「なぜだ。かれはムリムの手先として、この船を破壊した」
「そんなこと、俺には関係ねえ、その体ミニヨンAを返しなよ」
「下郎、この私アルナの聖剣をおうけ。私に殺されることを名誉と思いなさい。私は創造者。だから私はお前たちを自由にする権利がある」
「なにをしやがる。このおばんめ。お前が女王であっても、創造された人間を殺す権利なんかみとめない。俺は光二。フッコウベース、Bグループの光二だ、だれが進んで殺されるかよ。聖剣だかなんだかしらないが、むちゃはやめな。俺は戦うぜ、自分のため、そして有沙のためにな」そういう光二は、ふらついて、たおれそうになる。
「ど、どうしたんだ、おれの体は」光二の心に恐怖が走る。
「お前は『石の男』ムリムが作った世界の住民なんだよ、あのアルクと同じようにね。さあ、覚悟はいいかい」
姉の顔をした女王アルナは、鋭い剣を光二の体にむけた。
『光二、お前も聖砲をもっている』光二の心に声がした。アインだ。そうだ、聖砲はどこだ、光二はポケットからそれをだした。祭司の剣が動く。光二はかろうじて横にころがる。が、剣からでた光線が光二のほほをはう。
「光二、は、早くしろ」アルクが声をかける。 アルクの足は完全になくなっている。
「うわっ」光二の指が第2関節までなくなっていた。
「どう、つかうんだ、これは」アルクにたずねるが、アルクもしらない。アインのおっさん、教えてくれよ。俺は使い方をしらないんだ。
「さあ、観念おし」アルナが、ゆっくり剣をかまえた。光二は指輪を真ん前に差し出していた。
「なぜ、お前がそれを、それは有沙がもっていたはず」アルナの顔色が変わっていた。
「さあ、はやく、それを、およこし、そうすれば、命は助けてやる」アルナの態度が急に変わっていた。
「だめだ、こ、光二」アルクが苦しそうにいう。
「そ、それを、渡したら、終わりだ」アルクはこちらをみながら倒れる。
「えーい、はやく、およこし」無理やりアルナは光二の指に手をかけた。
その時、別の声がした。「アルナよ、もうよせ」
「その声は、まさか」
「そう、ムリムだ、アルナ、私の最後のお願いだ」
「ムリム、あなたは消えたのでは」
「が、残留思考が、この聖砲に残っている。世界をつくろう。アルナよ、私と一緒になるのだ。この船の果てしない旅など、もう無用だ。この聖砲により、一緒になれ。君と私はただの移動機構にすぎない。行き先は彼が、北の詩人が知っている。時は満ちた。アルナよ、私の手にいだかれよ」
「ムリム、そうはいかない」
「アルナ、ゆるせ」
 光二の指輪の先から光が走った。
 目の前にいた女王アルナが消えていた。光二はアルナが最後に「ムリム、あなた」と叫んだのを聞いたような気がした。
 光二が勝ったのだ。怪我の功名だ。
いままで、黙ってみていた石の民がどよめく。「アルナが消えた」
が光二は泣き叫んでいる。
「ああ、ミニヨン、ミニヨンが消えちまった」アルクのおっさんよ、俺はミニヨンを消しちまった。光二はアルクの所へいき、アルクの体をいだく。「アルクのおっさん、ひどいことになっちまった。光二は涙がとまらない。が、光二のからだもどんどん消えて行く。
「アルク、どうすれば」光二はたずねる。が、アルクのからだは、もう半分になっている。しゃべれない。
『光二、はやく石の棺を開けろ』アインの声だ。『石の棺が問題なのだ』
「そ、そうだ、どこだ」目指す棺は、石舞台のうえに飾られている。石の民が光二をとどめようとする。
 光二は、聖砲をむけて相手を牽制する。そこへ、すりよっていった。もう光二も立ちあがれなくなっていた。
 くそう、力まかせに、石の棺を開く。急に光があふれた。中には男が眠っている。
「おい、おい、男だぜ」光二は気が抜けたような感じがする。聖なる棺に男が一人かよ。光二はその男の体にさわろうとした。一瞬、男の目がひらかれた。光二の目とその男の目があった。なんて、むさいおっさんなんだ、光二は思った。こいつが本当に世界を救えるのか。
「ときがみちたのか」男は、そうひとりごちた。光二は答えようがない。俺は何もしらん。するだけのことはした。詩人だった。彼は光二の顔をにらんだ。なまいきそうな奴め、あまり、時代は変わっておらんな。こんな若造が活躍する時代なのか。いやはや。詩人は溜め息をつく。
「私に歌えというのだな」いやいや言っている。だれもあんたの歌声など聞きたくもない。が光二も、もうしゃべれない。光二が、なにかをいう前に、その男は中央の石舞台にたっていた。
 このおっさんが主人公か、舞台だけはきれいに用意されているぜ。誰ものこっちゃいない。光二の体ももう半分になっていた。が最後まで見届けてやるぜ、ここまでして、死んじまうとは、俺も不運さ。Vグループのやつらを、あの時殺しておくべきだった。特に、アキヨシと登をな。
 詩人を前に敬う様に、石の民はしりぞく。 おっさん、はやく歌えよ。おれの体が残っているうちに。しかし、あの恰好はなんだ、帽子に、なげいコートときたものだ。俺の最後の見納めがあの姿かよ。光二は急に有沙の顔を見たくなった。アリサ、最後はアネキお前さんの指輪でたすかった。でも俺はアネキの体を吹き飛ばしてしまった。許してくれよ。でも。もうすぐ、アネキのそばへ、いける。光二はアルクの方をみた。アルクの体はもうない。
 ミニヨン、すまん、あんたのおとうさんは助けてやれなかった。ええい、詩人め、早く歌え。
 北の詩人は必死で思い起こそうとする。がなかなか思い出せない。あの時、機械神が、そうだ。
 はるかな昔、機械神が処理した石の歌が詩人の頭に蘇ってきた。神殿の地下で処理機構が、詩人の頭に組み込んだ歌。
 詩人の口からその言葉が、関をきったように、なだれでてきていた。
 詩人の言葉が船に溢れる。
 船が輝きを増す。やがて、おおいなる光が船をつつんだ。光二は言葉もなく、それをみている。おっさんやったじゃないか。でも遅いぜ。光二は自分のからだを見る。残っていない。
 こころの中のアインがつぶやいていた
『やがて、時の海がみちて、新しき世界が 』 船は大きく膨らみ、ばらばらにとびちった。船の部品のひとつひとつが人間の体に変化する。石の民だった。青き大地、つまり亜空間で分離した船の石の民のからだは、吸い寄せられるように、樹里の世界に落下していく。光二の意識は石の民と共にあった。急に青い空間を突き抜けていた。落ちる。そんな感覚が光二を襲った。見た事のある風景が光二の目に飛び込んできた。樹里だ、石の壁だ。
 樹里の里の人々も半分に消えかかった体で、石の民が落下してくるのをみていた。祭司長マニはつぶやいた。『時の海がみちて、  石の壁に書かれていたとうりだ』
 落ちてきた石の民の体は石の壁に密着する。まるでジグソーパズルのように、その位置が決まっているようだった。やがて、石の壁は、総ての石の民で満ちていた。
 石の壁はしばらくすると膨張した。光二の体もその中にあった。光二の聖砲が発光したのだ。
 石の壁は、機械神によって聖作された宇宙創造ベースだった。石の民とは旧世界、つまり旧宇宙の星ぼしの意識、記憶だった。
 機械神はこの旧宇宙が収斂するとわかった時、星ぼしの記憶を星砲、もしくは聖砲をつかい、高度集積化した。星を、まずは人間の大きさ、すなわち、星の総体意識をもつ石の民、それから石に、さらに船の素材として、さらには記憶をもつ生物的高度情報集積素子(バイオチップ)として。
 一人の石の民がその星の記憶、歴史だった。 光二は自分が石の壁に密着した時、あの北の詩人にちかずいているような気がした。
 アインはアイン星であり、リアノンはリアノン星であった。
 『石の男』ムリムは『死せるものの船』のサブコンピューターであった。『女王アルナ』もサブコンピューターのひとつだった。機械神が選んだ移動機構であった。二人は行き先を巡って争ったのだ。
 機械神が北の詩人に与えた役割は、宇宙創造の神になることだった。機械神は、新しき神として、当時の反対勢力の北の詩人をえらんだのだった。
 死せるものの船は、実は詩人の体そのものだった。が詩人はその事をしらない。亜空間の中、ただ、詩人の体がカプセルに入り、たゆとうていたのだ。体には石が埋め込まれていた。
 詩人の頭が記憶筒になっていた。石の壁は詩人の頭の記憶脳が現れたものだった。
 詩人の体には石が付着している。
 その石のひとつひとつが星。
 しかし、新宇宙が胎動したいま、そんな事は忘れ去られようとしていた。

 光二は、いやもと光二であったものは理解した。
 我々は新しき世界にいるんだと。石の民一人一人はいわば集積回路、つまりIC、多量の旧世界の情報を与えられた人達なのだと。
 石の壁自体がICを埋め込まれた基盤なのだと。
 石の壁が、旧世界の記憶を受け継ぎ、新世界を生むべく送り出された記憶のベースなのだと。『死せるものの船』は新世界を生むべく送り出された記憶の船なのだと。
 北の詩人の歌は命令コードである。
 詩人の歌がうたわれる時、スイッチは押され、新宇宙は始動しはじめる。
 アインの意識は広がり、アイン星を形づくる。
 光二は理解し、伴侶であるアリサーミニヨンの手をとった。
 そして。かれらは新宇宙の新しき星の上を歩み始めた。

SF小説■石の民■(1989年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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